旅するように写真を撮り続けて 沖縄の地で フォトグラファー・店長・母親として生きていく
2017年にオープンした沖縄スタジオ。クッポグラフィーでは全国に4つのスタジオがありますが、沖縄スタジオは、スタジオでのファミリーフォトから大自然を活かしたウェディングのロケーションフォトまで、さまざまな撮影ができる場所となっています。
今回は、沖縄スタジオ スタジオマネジャー(店長) 宮城偲音のインタビューを通して、仕事やスタジオの空間づくり、お客さまへの思いなど、写真が生まれる背景をご紹介します。
フォトグラファーとして仕事の幅を広げるため、20代で単身北海道から沖縄へ移住。その後、結婚、出産を経て、現在は店長として、仲間と一緒にお客さまに“心の支えになる写真”を提供できるよう撮影を続けています。実は、宮城自身もある写真に支えられています。そのエピソードや、沖縄ならではの撮影の醍醐味、母親になって変化した写真や生き方について伺いました。
“旅するように撮影する” 自然と景観を活かした沖縄でしか撮れない写真
ーー北から南への移住、思い切りましたね。何かきっかけがあったのですか?
宮城:きっかけは仕事です。地元札幌でフォトグラファーの仕事を探しているときに、未経験で自分を雇ってくださったところが、証明写真専門のスタジオでした。経験を積むうちに、もっと幅広い撮影をやってみたくなって。そんなときインスタグラムで、その後入社することになる沖縄のフォトスタジオのフォトグラファーさんが素晴らしい景色で撮影したウェディングフォトが目に留まって。すぐに連絡して沖縄へ行くことが決まりました。
ーー沖縄と札幌、撮るものが全く違うでしょうね。
宮城:咲いている花も、海の色も全く違いますね。札幌にも魅力がたくさんありますが、当時は気候も自然も何もかも異なる沖縄で撮ってみたいという気持ちが強かったです。
ーークッポグラフィーの沖縄スタジオではどのような撮影を行っていますか。
宮城:沖縄の自然や地形を活かしたウェディングフォトの撮影をしているところが、他の地域のスタジオとは異なる魅力だと思います。例えば、都市部だと撮影するには申請が必要な場所が多く、時間も決まっていたりします。でも、沖縄は比較的自由に撮影できる場所が本当に多くて。北部から南部、さまざまな場所に行って撮影をしていますが、目的地に向かう途中でここも撮影にいいかもと思った場所では、お客さまに提案をして写真におさめています。
ーーなんだか、自由な雰囲気で、撮る人も撮られる人も楽しそうですね。
宮城:まるで旅をしているような感覚になります。沖縄の島全体がスタジオになったような。駒沢公園スタジオのお客さまが、旅行中に沖縄で撮影してくださったこともありました。東京とはまた違った景色の中で撮影ができるので、とても楽しまれていたのが印象的で。いろんなことを柔軟に受け入れてくれる土地柄のおかげで写真にも自由度が出て、私自身も楽しみながら撮っています。
お客さまから教えてもらった 撮影体験が人生で特別になるということ
ーーそもそもどうしてフォトグラファーになろうと思ったのですか?
自宅に何十冊ものアルバムがあるくらい、母親が家族写真を撮るのが好きな人で。こんな場面まで写真に残しているんだって驚くくらいたくさん。記録として残してくれていたんでしょうね。幼い頃からアルバムを時々眺めていたので、写真は身近なものでした。
そんな母の影響だったのか、自分もスマホでよく写真を撮っていて。頭のどこかで、フォトグラファーになれないかなとぼんやり思っていました。仕事で写真を撮りたいとはっきりと思ったのは高校時代でした。身長の高い女性の友人がいて、出会った頃から高身長がコンプレックスと、いつも話していました。私はすごく魅力的な女性だと思っていたので、お願いして何度も写真を撮らせてもらって。そんな彼女からある日突然、モデルのオーディションに提出するための写真を撮ってほしいと言われたんですよね。びっくりしましたが、自分がこれまで撮った写真が、少なからず彼女の自信に繋がったのかもしれないって思って。嬉しくて、今後ずっと写真を撮っていこうと決めた出来事でした。
ーー自分の写真が誰かの自信に繋がる。素敵ですね。
そうですね。今でも、写真を撮るときは、この人の魅力を引き出したいという思いで撮っています。
ーークッポグラフィーに入社したのはどうしてだったのですか?
クッポグラフィーが沖縄に出店する直前、私が勤務していたスタジオでは、東京からすごい写真を撮る人たちがやってくるぞって店長が話していました。
ーーそんなことが(笑)
その頃の私は、ウェディングフォト専門の会社に勤めていたので、お客さまとはその日限りのお付き合いで終わってしまうことに寂しさとモヤモヤを抱えていました。また会いたいけれど、その機会がないなって。
クッポグラフィーは、お客さまと再会できることを大切にしていて、ウェディングフォトで出会った方々が、その後ファミリーフォトの利用でまた来てくれている。そんなところに魅力を感じて入社面接を受けました。
ーー入社してからはいかがでしたか?
フォトグラファーを経験してたとはいえ、ファミリーフォトは初めての連続で、慣れるまでは試行錯誤でした。
実際、入社直後は、“良い写真”を撮ることに必死で見えていなかったことが多くて。お客さまに気づかされた出来事がありました。
沖縄スタジオがオープンして間もない頃から、何度かスタジオで撮影してくださったお客さまがいました。その方は、スタジオ立ち上げ時から在籍していたフォトグラファーとヘアメイクアーティストが毎回担当していて。私が撮影を担当した後に、以前担当してくれた2人が良かったと言われてしまって。
ーーなるほど…。
恐らく、撮影時の空気感も気に入ってくださっていたんだと思います。私は、前職では初めてお会いする方しか撮影したことがなかったのと、撮影はフォトグラファー個人が頑張るものだと思ってやってきていたので。ヘアメイクアーティストなど他のメンバーとのチームワークも足りなかったんだと思って。お客さまは、“良い写真”を求めているだけではなくて、その時間の楽しさや心に残る体験も同じくらい大切にされていることに気づかされました。
その後は、先輩たちの撮影を見学したり、クッポグラフィーの写真をとにかくたくさん見ながら勉強しました。
ーーそうなんですね。今はいかがですか?
先輩たちに追いついたとは思っていませんが、写真もその日の体験も、どちらも心に残るものになってほしいと思いながら撮影できるようになりました。
沖縄って、ファミリーフォトで一緒にいらっしゃるご家族の数がすごく多いんですよね。きょうだいも多いですし、親戚の絆が強いのもあって。東京など都市部では、親戚が同じ地域に住むことも少なくて、撮影で集まること自体も難しいですよね。
昨日は、お子さまの記念日で来てくださったご家族がいたのですが、おばあちゃんもひいおばあちゃんも一緒に撮影しました。撮影後のスライドショーでは、何度もありがとうございますと言ってくださって、私もあたたかい気持ちになりました。
ーー宮城さんが望んでいた、お客さまとの「再会」はありましたか?
たくさんありました。撮影をきっかけに、その後カフェを利用してくださったりイベントに来てくださる方もいて。やっぱりまた会えるってすごく嬉しいことですね。
中でも思い出深かったのが、お子さまの1歳の誕生日の撮影で来てくださった、外国人のお客さまでした。日本語を話せない方で、私は英語を話せず携帯の翻訳アプリで調べながらの撮影で。しかも、当時スタッフが少なかったこともあり、私一人で担当をしました。語学ができないことで、事前のコミュニケーションもうまくできないまま撮影当日を迎え、お客さまは不安だったと思います。もう必死に、ジェスチャーと翻訳アプリ頼みで乗り切ろうとしていたそのとき、お子さまが初めて立ち上がったんです。
ーーそれは感動の瞬間ですね。
そうなんですよ。記念のその瞬間を無我夢中で写真におさめました。
スライドショーを見てもらった後に、お父さまが急に携帯の画面を見せてくださって。そこには日本語で、「あなたは最高のフォトグラファーだ」って書かれていたんです。
ーーあぁ、もう感動の連続ですね。
本当に。撮影がスタートしたときは言葉が通じない中でどうやって楽しんでもらおうかと思っていましたが、最後はハグをして笑顔でお別れができました。
後日、お母さまが私の個人のインスタを見つけてくれて連絡をくださったり、kuppo dayのイベントに来てくださったり。娘にお下がりのおもちゃを持ってきてくれたり、いつも気遣っていただいていて。再会したときには日本語を話していたので、驚いてどうして話せるようになったのかを聞いたら「あなたと話すために勉強した」と。
ーー撮影したあの日が、その方の人生で大切な1日になったんでしょうね。
そうだといいですね。お客さまと「再会」できる喜びを身をもって感じました。
落ち込んだときの支えに “母親である私”を肯定してくれる娘の写真
ーー現在、2歳の娘さんがいらっしゃると伺いましたが、仕事と子育ての両立は大変ですよね。特に、フォトグラファーだと土日も仕事が入ることもあるかと思いますが。
今現在、沖縄スタジオには私以外にも子育て中の女性スタッフがいて。子どもの急な発熱で出勤できなくなったときなど、お互いに助け合いながら仕事をしています。クッポグラフィーって、子どもを好きなスタッフが本当に多くて。私が妊娠しているときも、毎日のように大丈夫?つらくない?って気遣ってくれたり。
ーーそれは心強いですね。
わかってもらえているだけで働きやすいですよね。加えて、夫や夫の妹弟たちにもサポートしてもらっているので助かっています。
ーー娘さんの写真はもちろん撮りますよね。
はい、たくさん(笑) 助産師さんに取り上げてもらった瞬間の娘の写真もあるんですよ。
ーーえ!それはすごい!
分娩台の枕元にカメラを置いていて、産声を上げるタイミングでシャッターを切りました。
ーー産む前から撮るって決めていたんですね。
決めていました。撮るのが使命みたいな気持ちで。ここが母になるスタートだと思っていたので、3人家族の生活が始まる一番最初の瞬間は自分で撮りたいっていうのがあったんです。
ーー娘さんが産まれてどんな風に変わりましたか?
色んなことが良い方向に進みましたね。まずは早寝早起きができるようになって。以前よりも仕事にも集中できるようになりましたし、無駄な時間がなくなりました。
保育園に迎えに行くと必ず娘が手を広げて待っていてくれるんです。それを見て一気に母親の気持ちに切り替わりますし、毎日幸せをもらっていますね。
ーーかわいいですね。写真の感じも変わったんじゃないですか?
社長の久保さんからは、私自身が撮影を楽しんでいる感じが写真から出るようになったねって言われました。娘ができる前も子どもは好きでしたが、子どもとの遊び方がよくわかっていなかったこともあって、ちょっと距離もあったのかもしれません。どう接したらいいのか迷っていた感じも写真に出ていたのかもしれないですね。母親になってからは、もう本当に、どの子も我が子のようにかわいくて(笑)
この子のこの姿は今だけと、特別な瞬間に立ち会えていることを心から喜べるようになって。
例えば、ハイハイする時期って一瞬で終わっちゃいますよね。娘を通して自分自身がその一瞬を経験したので、撮影でもこの姿を残したいという思いが強くなりましたし、シャッターを切るタイミングも変わったと思います。
そういえば…。ファミリーフォトのお客さまは、涙を流す方が多くて。私も気持ちを重ねて一緒に泣いてしまうこともあります。
ーー涙、ですか?
特に、撮影後のスライドショーで自分たちの写真を見ながら涙を流す人が多くて。
お子さまが小さいと、走り回ったり、ご機嫌が悪くなってしまったり、撮影中色々あるんですよね。ご家族が思い描いていたような表情を見せなかったりも。
でも、出来上がった写真を見てみると、あのとき我が子はこんなにいい表情をしていたんだと驚かれることもあります。以前、あるお母さまが言ってくれたのは「写真を見て自分にご褒美をもらえた気持ちになりました」と。子育てできっといろんな苦労をされてきたんだろうなと想像したときに、今日のこの日があって、この写真を渡すことができてよかったと心から思いました。
ーーその写真が、後々心の支えになってくれるといいですね。宮城さんにも支えになる写真はありますか?
やっぱり娘の写真ですね。職場の先輩に撮ってもらった妊婦の写真や、後輩に撮ってもらった家族3人の写真、そして先ほどお話した出産直後の娘の写真です。初めての育児で、何が正解かも正直分からないし、毎日気が付いたら寝る時間になってしまったり。忙しさがストレスになって、まだ小さい娘を怒ってしまうことも。そんなとき、私ちゃんと母親になれてるのかなって不安になるんですよね。でも写真を見ると、これで大丈夫って思えてきて…。写真の力ってすごいですよね。
沖縄スタジオを拠点に 新しい仲間と盛り上げていきたい
ーー育休後、職場復帰をして間もなく店長になられたそうですが。
復帰1か月後に店長をお願いされました。正直、これまで中心となってみんなを引っ張るような存在ではなかったですし、驚きと店長業務が務まるんだろうかといった不安でいっぱいでした。
ーーそうだったんですね。店長として働き始めて1年ほど経ちますが、いかがですか?
これまで、ミーティングではあまり積極的に発言をするタイプではなかったのですが、自分が話さないと回りませんし、色んなことを伝えていかないといけないなと思っています。
今では、仲間と一緒にたくさんのお客さまを迎えていきたいと強く思うようになって。
ーー気持ちのスイッチが入るようなきっかけなどあったのですか?
店長になる前ですが、スタッフ一人ひとりとやりたいことや夢などをざっくばらんに話したりしていたので、店長になったとき、それを実現できるのって自分しかいないじゃんって思ったんですよね。自分がちゃんと実行に移さないと、仲間の思いは実現せずに終わってしまう。あるときそう思ったところから、店長としての心構えができたように思います。
ーー実際に実現できたことはありますか?
スタッフたちの声で多かったのが、もっと沖縄スタジオの露出を増やしたいという希望でした。沖縄は、人間関係の繋がりが強く、日々の仕事においても人脈が重要になってくる土地柄で。イベントなどで知ってもらう機会を増やして、繋がりを広げたほうがいいという声が多かったんです。マーケティングチームに協力してもらって、2022年に、沖縄にあるパルコシティで撮影体験会を初めて開催しました。それ以降、毎年イベントを開いて、今までに来てきてくれた方はのべ200名にものぼります。
ーーすごい。みんなの思いを形にできたんですね。
そうですね。クッポグラフィーには、仕事でもプライベートでもやりたいことや夢を言葉にできる組織風土があるように感じています。この春、自分のやりたいことを実現させるために退職を希望したスタッフを次の道へ送り出しました。寂しかったですが、以前からその話を直接本人から聞いていたので、心から応援しています。そんなこともあって、現在は新しい仲間を募集しています。
ーー沖縄スタジオにとって新たなスタートになりそうですね。
そうですね。入社してくれたスタッフと新しい気持ちでスタートしたいと思っています。県外から来てくださる方の負担もできる限り軽くしたいと思っているので、移住の費用もサポートしています。
沖縄は本当に美しい場所で、その土地の魅力を活かした撮影ができるので、来てくださった方はきっと気に入ってくれるはず。沖縄を拠点にクッポグラフィーをみんなで盛り上げていきたいです。
取材・文:石垣藍子
撮影:クッポグラフィー
関連リンク:
クッポグラフィー フォトグラファー募集ページ
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クッポグラフィー ヘアメイクアーティスト募集ページ
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